脳イメージング用蛍光色素の合成開発

Development of voltage sensitive molecular probes for bio-imaging and for photoparmacology

 神経細胞の生理的機能を明らかにすることは,脳の機能に関わる様々な疾患の治療法を開発する上で重要な課題です。近年急速に発展しているバイオイメージング技術,とりわけ蛍光顕微鏡を利用するイメージング技術は,そのための重要な方法論と考えられています。
 神経細胞は電位パルスと神経伝達物質を利用して,互いに情報を伝達しています。この電位パルスとは,細胞膜内外のイオン濃度を変えることによって生み出される膜電位の一過性の変化です。したがって,膜電位の変化を精度良くイメージングすることができれば,神経細胞の活動をリアルタイムで可視化することができるはずです。膜電位に応答して蛍光を変化させる「膜電位感受性蛍光色素」は,これまでにも開発され,市販されてもいますが,より高い感度と高い時間分解能が求められています。
 そこで私達は,超分子の視点を元に,新規な膜電位感受性蛍光色素の開発を行っています。これまでに,既存の色素より高い感度をもつ色素を合成することができました。こうした色素の研究を通して,私達はPhotoparmacology(光薬理学)分野への応用も目指しています。


溶媒を変えれば,1種類の色素で赤から青までの広い範囲の蛍光色を出すことができる。


がん治療用の薬剤分子の合成開発

Development of anti-cancer drugs: (boron・fluorine・iodine)×(photon・neutron)

 私達は「ホウ素」と「光」をキーワードに,様々ながん治療に使う新たな薬剤分子の基礎研究を行っています。
 ホウ素と中性子を組み合わせた「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」というユニークな治療法が臨床応用されています。この治療法のためには,ホウ素原子をもつ特殊な薬分子が必要ですが,治療効果と排出さやすさのバランスが取れた新しい薬剤が期待されています。
 ホウ素原子は分子標的薬にも利用されています。多発性骨髄腫の薬であるボルテゾミブにはボロン酸があり,それがプロテソームの活性サイトに結合することによって薬効を発揮します。ホウ酸部分をもつ同種の阻害剤の開発が期待されています。
 さらに,ボロン酸は薬剤分子の合成原料として非常に有用です。ボロン酸は鈴木宮浦カップリングなどの基質になるからです。
 このようにホウ素を含む新規化合物は,様々な点でがんなどの薬剤開発に貢献すると期待されます。そこで私達は,ホウ素を含む新規なアミノ酸,ペプチドミメティクス,蛍光プローブなどの開発を行っています。



アジリジン骨格をもつ神経細胞標的化合物の合成

Synthesis of aziridines as nerve cell-targeted compounds

 スギヒラタケというキノコには,pleurocybellaziridineというアジリジンが多量に含まれていることが明らかになってきました。アジリジンは炭素原子二つと窒素原子一つから成る三角形の構造ユニットで,反応性が高く,抗がん剤に利用されていたり,アミノ酸など様々な化合物の合成原料にもなる興味深い化合物です。Pleurocybellaziridineには,神経細胞の一種であるオリゴデンドロサイトに選択的に集積する性質もあり,生理活性が期待されます。本研究では,pleurocybellaziridineの生合成経路を解明するとともに,オリゴデンドロサイトに集まる性質を利用して,オリゴデンドロサイト標的型の薬剤や分子プローブの開発を目指しています。


小さな分子と大きな蛋白質との相互作用

Supramolecular chemistry: ligand and protein

 分子と分子がゆるやかな力で結びついてできる「超分子」は,生物の機能の制御を考える上で重要な概念です。たとえば,私達が香りを感じるのは,香料分子が,鼻の奥にある香り受容体にゆるやかな力で結びついて,「超分子」を形成することが引き金になっています。薬が効くのも,薬の分子が,病気の原因になっている蛋白質に結びつくから。光合成生物がきちんと光エネルギー変換ができるのも,クロロフィル(葉緑素)とクロロフィル蛋白質とが極めて精巧に組み合わさっているからです。しかし,小さな分子と大きな蛋白質との相互作用はとても複雑で,どの部分とどの部分が結合するのか,どんな形の分子だと強く結合するのかといったことには,まだまだわからないことが沢山あります。
 そこで私達は,新しい薬分子の開発や,光合成メカニズムの詳細な解明などを目指して,小さな分子と大きな蛋白質との間の超分子形成の特徴や起こりやすさを研究しています。たとえば,クロロフィル蛋白質はある共通の方向からクロロフィル分子を結合させていることを明らかにしました。それは植物かバクテリアかに関係なく,光合成を行う生物のほとんどがもっている共通の化学的原理でした。


クロロフィル類の超分子化学:光合成メカニズムの解明に向けて

Chemistry of chlorophylls toward photosynthesis

 葉緑素(クロロフィル類)は光合成を担う最も重要な分子です。太陽光を吸収し,そのエネルギーを化学エネルギーに変換しているのはクロロフィルなのです。光合成を担う蛋白質の中では,たくさんのクロロフィル分子が集合して機能しています。また,クロロフィル類には分子構造が少しずつ異なる様々なクロロフィルが属しています。したがって,「クロロフィルの化学」は,光合成を理解し,活用する上でとても重要な研究テーマであると言うことができます。
 私達はクロロフィル類の超分子形成について長く研究してきました。クロロフィルの立体構造や官能基が,超分子形成に及ぼす様々な影響を明らかにしてきました。少しだけ分子構造が異なるクロロフィル同士を混合したときに,形成される超分子に「相分離」が起こるかどうかについても興味をもっています。
 私達はまた,クロロフィル類のヨウ素化反応や共酸化反応,ラジカル反応,さらにそれらを鍵反応とする新規な官能基変換反応なども見い出してきました。特に,チオール存在下での共酸化反応は,クロロフィル-d生合成経路(未解明)の最重要部分であると推測しています。


自己会合性超分子を用いた新規なナノデバイスの構築

Supramolecular chemistry toward living-like systems (shiki-soku-ze-ku)

 生物システムは定常開放系です。エネルギーと物質の流れの中で,絶えず自身の一部を壊しながら新しい一部を構築しています。それが可能なのは,細胞が超分子の組み合わせでできているからです。したがって,超分子の集合体は生物的な振る舞いを可能にする最小単位であり,適切な超分子を組み合わせれば生物のような特徴をもつ人工システムが得られると期待できます。
 私達はこのような基本原理を実現するモデル系を研究しています。例えば,「チューブリン」という蛋白質は自己会合すると,ナノサイズの円筒構造体「微小管」を形成します。私達はこのことに着目し,種々の機能分子を複合化したチューブリンを会合させることによって,新規なインテリジェント・ナノデバイスを構築しました。


科学技術人材の育成法

STEAM education

 研究室,大学のカリキュラム,理系高校生育成プログラムなどを通じて,人工知能時代の科学技術人材の育成法を研究しています。コーチングやアクティブ・ラーニングなどを試行しながら,主体的な学びを支援し,創造性を育みたいと考えています。





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