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宇都宮大学 Utsunomiya University

研究プロジェクト Research Projects

ソフトマテリアルを用いた生体機能制御

ゲルイメージ  医療、薬学、バイオテクノロジー分野で活躍する材料の創製とその利用システムの開発を進めています。生物は多くの水を含んだ細胞組織で構成されており、水で膨潤し含水率の高いソフトマテリアルは生体機能の制御に欠かせない未来材料です。
 それだけではありません。ナタデココ、タピオカ、グミなどの食品、ソフトコンタクトレンズ、ジェルボール洗剤、ゲルインクボールペン、紙オムツの高吸水剤など日常の豊かな生活のなかには、様々なソフトマテリアルがあふれています。天然素材や合成高分子を用いて、分子認識、環境応答をキーワードに高機能性素材としてのソフトマテリアルを創製します。


細菌の集団的遺伝子発現システム:クオラムセンシング

クオラムセンシング  コロニーのなかの細菌が周囲の仲間と連携し、毒性物質などの生産を同じタイミングで行う細胞間情報伝達機構が、細菌感染症に関与することが知られています。細菌細胞は、互いにコミュニケーションし仲間の個体数をセンシングするために、情報伝達分子を周囲に放出しています。この情報伝達分子の化学構造は細菌ごとに異なります。細菌は自分自身が放出したのと同じ分子の濃度をセンシングしており、仲間がまわりに大勢いるかどうかを常にモニタリングしているのです。
 仲間が増えたとたんに、毒性物質の生産に関わる遺伝子の転写を、すべての細菌細胞が同じタイミングで一斉に開始し、ヒトなどの宿主を攻撃します。この細胞間情報伝達機構はクオラムセンシング(Quorum Sensing)と呼ばれます。日和見感染菌のクオラムセンシングについて、遺伝子レベル、分子レベルでの解析を進めています。


細菌のコミュニケーション機構を遺伝子レベル、分子レベルで探索

クオラムセンシング2  クオラムセンシングの活性化は、情報伝達分子、情報伝達分子と結合するレギュレータータンパク質、標的DNAの分子間相互作用により起こります。これらの分子間相互作用の定量的な解析には、単振動する水晶振動子表面に結合させた標的DNAに対するレギュレーターや情報伝達分子の吸着量を、共振周波数変化から追跡するQCM法などを利用します。
 クオラムセンシング機構が正しく機能するためには、情報伝達分子の合成酵素、レギュレーター、標的DNAがそろわないといけません。それなのに、自身では情報伝達分子を作れないのにレギュレーターや標的DNAを保有する細菌も多く存在することが明らかになってきました。そのような細菌が進化の過程でどのようにして広範に生存するに至ったのか?世界中の多くの研究者が解明にのりだしています。
 また、なかには細菌を死滅させる抗生物質を分解したり、投与された抗生物質を細胞外に排出する機能を獲得し、薬ではなかなか死なない薬剤耐性菌も現れています。多くの薬に対して耐性を獲得した多剤耐性菌の出現は、健康被害を増大させて人類の脅威となっています。


薬剤耐性菌が出現するリスクフリーのクオラムセンシング阻害技術

クオラムセンシング阻害  世界保健総会で2015年に薬剤耐性細菌に関するグローバルアクションプランが採択され5つの戦略目標が示されており、抗生物質の使用を最適化し使用量を減らす方策が重要であることが示されています。
 ヒトに対する感染菌がクオラムセンシングを利用して毒性物質の生産を誘導する例も多いことから、人為的なクオラムセンシング制御法の確立は細菌感染症の予防技術として期待されます。薬を投与して細菌を殺す従来法とは逆転の発想で、細菌がつくった情報伝達分子を捕まえて除去したり、不活化することでクオラムセンシングを阻害する新システムの確立を目指しています。


薬を使わずに細菌感染症を予防

クオラムセンシング阻害2  細菌(バクテリア)の機能を、細胞の外部からリモートコントロールする新技術の開発を進めています。グラム陽性細菌では数分子のアミノ酸がアミド結合したペプチドが、グラム陰性細菌ではホモセリンという一分子のアミノ酸誘導体が、クオラムセンシングの情報伝達分子となることが特徴です。これらの情報伝達物質のトラップ素材、分解を促進する固定化酵素の設計を進めています。
 クオラムセンシングを行っている細菌の周囲から情報伝達分子を取り去ることで、仲間の数がまだ少ないと細菌を勘違いさせ、病原性因子の生産を止めることが可能となります。情報伝達分子と相互作用する新素材は、細胞内部で起こる病原性遺伝子の発現を細胞の外からリモートコントロール(遠隔操作)可能にするのです。


微生物膜バイオフィルムの制御

バイオフィルム  水が存在するいたるところで細菌は増殖し、水が接触する表面に細菌が付着したバイオフィルム (Biofilm) が形成されます。細菌は、多糖、タンパク質、あるいは細胞外DNA (eDNA) を細胞外高分子物質 (Extracellular Polymeric Substances: EPS) として自身の周囲にまとい微生物膜の中で生存します。バイオフィルム内部の物質透過性は低く、外部からの薬剤や洗浄剤は浸透しにくく、細菌の生育には都合の良い環境です。これらEPSの細胞外への放出過程にクオラムセンシングが関与する例もあることから、クオラムセンシングの阻害によるバイオフィルムの形成抑制効果を試験しています。口腔細菌が歯表面に形成するバイオフィルがう蝕など歯周病の原因となったり、分離膜がバイオフィルムの形成により目詰まりするバイオファウリングなど、様々な分野でバイオフォルムの形成阻害、除去技術が重要とされています。

バイオミメティックなゲル繊維を紡糸する

ゲルファイバー  生体内に存在する繊維状組織が束となった筋原線維、腱などの形状を模倣したゲル繊維束の合成技術を開発しています。多糖類、合成高分子、タンパク質などを素材とした高分子会合体が流れ場で受けるせん断により、流れ方向へほどけるようにコンフォメーション変化し、直径数ミクロンのゲル繊維が束状となったマルチコア構造を形成します。多孔ノズルを使わないのに、数百本から数千本のゲル繊維が並列して同時合成されます。繊維束を解離させるゲル繊維の集積制御技術、水性二相分離を利用してゲル繊維の表面に化学組成の異なるドメインをディスプレイし、細胞の接着性を制御する細胞足場を創製します。

バナースペース

宇都宮大学 工学部 基盤工学科
物質環境化学コース
ソフトマテリアル研究室

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