今月の研究紹介:生物情報工学研究室

- バクテリアだってお話好き -


 バクテリアも「会話」をしている

  チームワークで一斉攻撃

 わたしたち人間は「言葉」を使って相手とコミュニケーションをとっています。しかし、一番小さな生物である「バクテリア(細菌)」はどうでしょうか? 目もなければ口もないし耳もありません。しかし!こんなバクテリアでも仲間と「会話」をしていることがわかってきました。その中の一つが「クォーラムセンシング」です。


 「クォーラムセンシング」では、バクテリアは会話をして周囲に自分の仲間がどのくらい存在するかを確認しています。バクテリアは「言葉」の代わりに「オートインデューサー」と呼ばれる化学物質を使って相手とコミュニケーションをとっています。仲間が周りに集まったことを察知して一斉に行動を起こすのですが、病原性菌の場合、毒素の放出などの病原性因子を制御していることがわかっています。 つまり、一匹では歯が立たない相手でも、仲間が集まったところで一斉に攻撃を仕掛ければ、大きな相手でも倒すことが出来るという、バクテリアの考え出した知恵なのです。

  「言葉」の正体は化学物質

 「グラム陰性細菌」という種類のバクテリアはN-アシル-L-ホモセリンラクトン(AHL)」という物質をオートインデューサーとして使っています(構造は下図)。この物質が「言葉」の正体です。つまり、この物質のやりとりを遮断することが出来ればバクテリアの会話をシャットアウトすることが可能で、仲間と協力してせっせと病原性を発揮するバクテリアを黙らせることが可能なのです!!

 ※ここまでの話は昨年の研究紹介でも詳しく説明していますので、ぜひご覧下さい。



AHLの基本構造




 「会話」をシャットアウトする三つの手段

 私たちの研究室では以下に紹介する三つの方法でバクテリアの「会話」を遮断する研究を行っています。

  「言葉」物質を分解する

 土壌などにはこのAHLを分解してしまう酵素を作るバクテリアが存在しています。AHLのラクトン環の部分を開裂させる「AHLラクトナーゼ」やアミド結合を切断する「AHLアシラーゼ」といった酵素が知られています。これらの酵素をうまく使うと、バクテリアは仲間と「会話」ができず、仲間の数が増えても病原性を発現することが出来なくなってしまいます。



AHLを分解する二種類の酵素の反応



  別の「言葉」で混乱させる

 授業中、先生の話を聞いている時、周りの人に大声で別の話をされると、先生が何を言っているのかわからなくなることってありませんか?これと同じ事をバクテリアにも応用することが出来ます。AHLによく似た構造の「アシル化シクロペンチルアミド(CnCPA)」をバクテリアに投与すると、バクテリアの会話を混乱させることが出来ます。たとえバクテリアが「誰か周りにいますか〜?」と呼びかけても、別の言葉に阻まれて周りの仲間には届かないといった訳です。



AHLとその類似物質の構造


  「言葉」物質を捕まえる

 最後の方法は、発した声を掃除機で吸い取ってくれる、そんなドラえもんの秘密道具のような方法です。グルコースが環状になった「シクロデキストリン」はAHLを内部に取り込んで捕まえる性質があります。このシクロデキストリンを高分子ゲルに固定化した「AHLトラップゲル」を図のように沈めておくと、バクテリアが放出するAHLをぐんぐん吸い取ってしまいます。



AHLをトラップするシクロデキストリン





 新しい感染症対策につながる「会話」の遮断

 さて、バクテリアの「会話」を邪魔することでどんなメリットがあるのでしょうか。これまでの細菌感染症の治療は「抗生物質」の投与に頼ってきました。しかし近年、耐性菌の発生など抗生物質のみで抑えることがだんだんと難しくなってきています。バクテリアの会話を遮断すると、バクテリアの病原性のみを抑えることが出来ます。病原性細菌が体内に侵入しても悪さをせずにおとなしく漂っている。そんな「夢の治療法」が開発できるかもしれません。



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