メンブレンリアクターを用いたNH3分解の促進と水素製造

はじめに

アンモニアは無機系水素キャリアとして、かつて通産省工業技術院の国家プロジェクト(水素利用国際クリーンエネルギーシステム WE-NET第Ⅰ期、1993~1998年 )1) において、水素貯蔵物質の有力候補の1つとして予備的に検討されたが、その臭気や毒性に伴う取扱いの問題から取り上げられることはなかった。ところが、2014年開始の内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)のエネルギーキャリアプロジェクトでは、アンモニアに焦点が当てられ分解、合成、利用面での研究開発が推進された 2)。今日では石炭火力の混合燃焼燃料としても注目されている。脱炭素という大義の実現に向けて有力な手段の1つと言えることから、この流れは今後も加速されていくであろう。
水素源としてアンモニアを利用する場合には、水素と窒素に分解する工程が必要になるが、加えて窒素を取り除いて水素を精製する工程も欠かせない。こうした2つの要求に答えられるために、我々は反応と膜分離を合体した装置であるメンブレンリアクター(Membrane Reactor)の開発に取り組んできている。

メンブレンリアクターのアンモニア分解性能

メンブレンリアクターの基本的構造は、図1に描いたように触媒充填層内に分離膜管を挿入したものである。アンモニアは NH3 → 1/2N2 + 3/2H2 のように分解するので、分離膜としてパラジウム合金を使用すれば、分解で生成した水素のみが透過分離される。その水素透過の駆動力を確保するためには、透過出口に減圧ポンプを接続して透過側の水素分圧を分解反応側のそれよりも低くする方法で行えば良い

図1 アンモニア分解のためのメンブレンリアクターの概略図.png

図1 アンモニア分解のためのメンブレンリアクターの概略図

図2は、ルテニウム系触媒を数十cc充填した実験室規模のメンブレンリアクターによってアンモニアを分解した結果を表している。通常反応器すなわち触媒充填反応器で水素分離膜が組み込まれていないものに比べて、大きなアンモニア分解率が達成されている。これは、分解が起こっている触媒層から水素が除去されることで、反応速度が増すためである3)
それと同時に、パラジウム合金膜によって精製された高純度水素が透過側から得られる。その精製水素の回収率を、対原料割合 [%]=透過水素量/(アンモニア供給量×1.5)×100で定義して整理したのが図3である。回収率は、触媒量/原料比が大きくなるとともに増加することがわかるが、これは水素分離が行われる時間が長くなるためである。

図2 メンブレンリアクターによるアンモニア分解の促進.png

図2 メンブレンリアクターによるアンモニア分解の促進


図3 メンブレンリアクターによる精製水素回収率.png

図3 メンブレンリアクターによる精製水素回収率

一般的に、メンブレンリアクターの性能は分解触媒の活性増加や膜自体の性能つまり水素透過速度(水素透過係数、膜厚、膜面積、素材で決まる)の増大によって向上させることができる。

応用展開例

日本国内で普及が進んでいる家庭用エネファーム(高分子固体電解質型)は、~0.7kWで運転されており、それに必要な水素量は約11 L/minになる。この水素をアンモニア分解によって供給するには、約8L-NH3/min を分解する反応器を用意する必要があるが、高性能な膜反応器であればコンパクトに設計することが可能である。

引用文献

1) 伊藤直次:“水素製造・貯蔵輸送と反応分離膜”、p.100-113、日刊工業新聞社 (20008)
2) 科学技術振興機構:戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「エネルギーキャリア」
https://www.jst.go.jp/sip/k04.html
3) N. Itoh et al.: Catal. Today, 236, 70-76 (2014)